もういちど始めること

もしかして、本当に気が乗らない今このときしか無いんじゃないだろうか?

自作の動画の話:WASABI

www.nicovideo.jp

WASABIである。
第一回スパイス祭に投稿した。主催はシャルさん。

開始~1分ちょいまでのパロディである部分が動画の本編であり、後でワサビを使った料理を食べてるパートはこう言ってはなんだがオマケだ。

パロディ部分について

冒頭の意味不明な映像はWASABIという有名なFLASH作品のパロディである。
そもそも若い人はFLASHという概念自体知らないかもしれない。大雑把に言えば大昔の動画ファイルの形式の1つだ。
動画以外にもゲームやWebサイトなど何にでも利用出来る万能形式だったのだが、万能さ故に複雑になりすぎたのかセキュリティがガタガタであった。
iPhoneはそれを嫌ってFLASHをサポートしない事を表明し、Androidもそれに続いた。
スマホ時代・大容量の動画が手軽に視聴できる時代の到来と共に公式サポートも終了し、現在では意図して視聴しようとしない限り目にする機会はまず無い。

元ネタのWASABI

ネット黎明期を駆け抜けたFLASH動画の、WASABIは初期も初期の作品である。
クレジットとしてCyrus Dern idea factoryというサークルか会社かの名前とCyrus氏のものと思われるメールアドレスが記載されており、元ネタからするに恐らくアメリカの方なのだろう。*1
日本製の有名な初期の作品である「片翼の田代」や大手であった「ドラサイト」の登場よりも時期的には少し前だ。
Hatten är din」なんかも時期が近かった気がするが細かい前後関係は覚えてないしこのへんは調べてもすぐ出てこない。何にせよここで挙げたタイトルは全て「FLASH黄金時代」と呼ばれる時代の開幕を告げる、相当初期の作品だ。
nico.ms

WASABIの内容は本当にシュールで、和食の料理人のような風貌の人物達がワサビー! ワ・サ・ビー!と様々なトーンで連呼する。
少し捻ってワサベーみたいな発音にしたみたり、末尾のビーを伸ばしてそこだけ各人物で切り取って繋げて ビービービーと謎のコンビネーションを見せたりする。
こうして書いてみると完全に意味不明だが、意味がわからなくても雰囲気が面白ければ流行るのがインターネットである。これは今でもそう。
独特の奇声が癖になって定期的に視聴する人もいたし(私がそう)、前述の「ドラサイト」の管理人はオリジナルのWASABIから音声を抜き出して素材にしてドラえもんのキャラクターを勝手に利用し「のび太が所有するワサビをドラえもんが踏みつけてのび太を悲しませる。のび太の悲しみをよそにドラえもんは足を拭くふきんを持ってこいと要求する」という意味不明な劇場動画を作成し、これもまた人気を博した。
いや流行った事実があるのだが、やっぱり書いてみると意味がわからないな。
nico.ms

元ネタのWASABIの元ネタ

この意味不明なFLASH動画の元ネタは、アメリカを代表するビールのブランドである「バドワイザー*2のCMである。CMの放送時期が2000年なので、FLASHの方は2000年後半から2001年頃の作品だと思われる。

このCMは元々"Wassup(ワザー)" つまり英語のカジュアルな挨拶 What's up(調子はどう?)を更に略したフランクな挨拶を連呼するという内容。
最初はダラーッと電話で「お前何やってる?」「ゲーム(スポーツの試合?)観ながらバドワイザー飲んでる」みたいなテンションの登場人物達だが、後ろからオモシロ黒人が登場し「ワザーッ!」と叫んでからは、なんか知らんがそのテンションを維持したまま登場人物全員がそれ以降の会話のほとんどを「ワザーッ!」で済ませてしまう。
仲の良い若者は、全てを語らなくても「ワザーッ!」の応酬とバドワイザーさえあれば互いを理解出来てしまうのだ……という話らしい。そんなわけないがどうやらそういう趣旨のCMなのだという。
このCMは人気があり、シリーズとして複数制作されている。その中の1つに「日本食料理店で主にスキンヘッドの白人男性と料理人がWassup(ワザー)の代わりにWASABI(ワサビ)と連呼する」という謎のバリエーションがあり、これがFLASH作品WASABIの直接の元ネタだったのだろう。

いやこれも書いてみて思ったけど意味不明じゃないか?

私はFLASH作品WASABIがCMの音源そのものを加工した音MAD的なものかと一時期思っていたのだが、実際によく聴き比べると結構違っている。
もしかすると音声は全く別から持ってきた(作者が収録した?)ものなのだろうか? もしくはYoutube上に転載されていない未知のWASABIがあり、それが素材なのだろうか? 謎だ。*3
youtu.be

WASABIの味わい

様々な技法が生まれる黄金時代以前の作品のためFLASH特有の粗さが丸出しである。
FLASHは図形を計算して描画するのは得意だが 写真のような複雑な画像はそうでもなく、容量の問題で映像は全体的にガビガビだ。
また、人物の写真1枚を無理やり口パクさせるために下あごのあたりを切り抜いてパーツを分けてパカパカ動かすという表現を用いている。これって人形劇というか「ひょっこりひょうたん島」みたいだよね。*4

映像的には単にセリフに合わせて謎の日本食料理人が口をパカパカ動かすだけだし
セリフもほとんど「WASABI」と連呼しているか、謎の奇声*5を放っているだけである。

2000年頃の人類はこんなものを何度も繰り返し見てはゲラゲラ笑うしかないほど娯楽が乏しかったのだろうか? と過去の自分を含めて思わず同情しそうになってしまうが、しかしこの7年後にも人類はランランルーとかフタエノキワミとか言ってる動画を観てゲラゲラ笑っていたしよく考えると大差無い。
現代になると多様化・分散してくるものの、量とスピードが爆増しただけで根本的にはさほど変わってない気もしてきた。

自作の動画について

初めて全煮のフォーマットを外した動画となったので結構思い入れがあったりする。
といっても、きりたん、葵ちゃん、ゆかりさんの立ち絵は全煮から続投で使わせて頂いているのでノリは大差無い。
後の動画では結構普通に喋ってる回も出てくるゆかりさんであるが、当時は「煮ない動画におけるゆかりさんの扱い」に まだ迷いが残っていたようで、冒頭のFLASHパロディ部分が終わったらさっさと退場して貰っている。
とはいえ「煮る事に執着する巨大な女」である事に起因した異常な印象はパロディ部分を担当して貰う事で保たれており、違和感はあんまり無い。
何より「今回煮ないしゆかりさんもあんまり興味無いだろうな」という事で私の中でも解釈一致の振る舞いであった。
こんなしょうもない動画シリーズでも、キャラクターの言動の一貫性・説得力というのは観た時の気持ちよさを左右するものだ。

WASABIをスパイスと言い張るまで

当時はとにかくネタとして奇をてらう事を重視していた事・料理知識が本当に乏しかった事・インターネット老人だった事でこの動画が生まれた。
「スパイス祭に投稿してみよう!」と思っても、そもそもスパイスの事を当時ロクに知りもしなかった*6し、まともな料理のアイデアも無かった。

私でも扱えて、スパイスと言い張れて、笑えるネタを仕込むことが出来て、何より意表を突ける……そんな題材は無いか?
意表を突く……スパイスというと異国感があるが例えば和のイメージが強いものを出すというのはどうだろう? 和風でスパイシーといえば、わさび……わさびと言えば、昔FLASHWASABIっていうわけわからん動画があったよな。
ここまで発想すれば後はもう作るだけだった。わさびという食材がカブる事はあってもパロディ内容までカブる事はまず無いだろう。令和やぞ。

パロディを頑張る

編集の方法は、1番奥のレイヤーに元ネタのFLASHを配置し、FLASHの登場人物の頭部にゆかりさんの立ち絵を重ねるクソコラ然としたものだったが、これしかないと思った。
新島先生の立ち絵には当然、口を開けた表情の差分が含まれているが、これはあえて使わず「口を閉じた表情の下あご部分だけを切り取り口内を完全に真っ黒に塗りつぶした絵」を加工して用意し、FLASHと同じくパカパカ2枚の画像を切り替える形で動かし再現する事にした。他人様の立ち絵の加工としてはなかなか酷い部類に入るが新島先生は現人神なのでなんとかなると思った。*7
口パクや顔の位置の移動は1フレーム単位で元ネタに合わせた。この手の作業は少々面倒だが失敗する事もあまりない。何も考えなくてもやればやるほど再現度が高まる単純作業は正直やってて気持ちがよかったと記憶している。

あとはゆかりさんにFLASHが放っている奇声を再現してもらうだけだ。もはや言葉としての意味ではなく「どう聴こえるか」だけを基準に忠実に再現するための調声は、これも楽しかった。
作業フォルダには今でも "あじゃわさび.wav" "ブッキンボンマイザ.wav"など、意味不明なファイル名が続く。

気が狂ったゆかりさんの発言ファイル
ボイロを扱った事がある人にはわかるだろうが、ファイル名に付いてるのは最初にとりあえず入力して読んでもらうフレーズで、実際にはそこからアクセントや高さ、タイミングはもちろん、読み方まで弄っていくので最終的には結構別物になる事もよくあるのだが、それにしたって酷い。
しかし、この「自分でも意味がわかってないので純粋に音を再現するために調声する」という体験はなかなか奥深く、やはり楽しかった。

あとBGMは珍しくコモンズのものを使っていない。
元ネタのFLASHと雰囲気を近づけたかったので尺八をメインに使ったものにしたくて探した覚えがある。
探して見つけたのが竹幻斎/笛忍者と呼ばれる、謎の黒人尺八奏者の方の楽曲"Shakuhachi Meditation"であった。ワォ……ゼン……
Flute Ninja's Bio 笛忍者の伝記

料理を頑張る

あとはもう実際の料理は好きなものを作ってわさびを使って食べるだけだった。
デケエ豆腐、刺身、蕎麦、海鮮丼、卵かけご飯というバカみたいなラインナップだ。
メニュー自体にさほど意外性が無いので種類を増やして最後に卵かけご飯という並び。自信がイマイチな時は量を用意して許して貰おうとする傾向があるな。
これら全てを昼~夕方頃のうちに食べた。かなり満腹だったが、何故か最後の卵かけご飯まで美味しく頂けた事を覚えている。わさびパワーだ。

あの時 実際に感じた事だが、チューブのわさびと生わさびの一番の違いは やっぱり香りだ。
これはわさびに限らないが、一手間かけてわざわざ手作りした時に生じる良さのうち、素人にもインスタントとの違いとしてわかりやすく感じられるのは香りなのだろうと思う。ブイヨンや和風の出汁なんかもそうだ。

しかし、動画内でもネタにしているが、あろうことかわさびを擦るのにサメ肌おろしではなくすり鉢を使ってゴマの香りを付与するという大失態を犯している。この時のやらかしてしまった感は結構大きかった。もっと美味しく味わう事が出来たはずだったのだ。今考えれば、普通に大根とかを擦ってるおろし金を利用した方がまだマシなクオリティになった気がする。何故すり鉢を……? これは今でもわからない。

それと、コメントなどでも指摘されているが、刺身を食べる時のわさびを露骨に醤油に溶かしている。
これは実際美味しんぼ等で読んだ事のあるネタで、昔のマナーとしてあまり良くないものとされている事は知っていた。
現在では「溶かした場合はまろやかになるので、そっちの方が好みの人は溶かせばよい」となってきているし、実際、私も直接付けるやり方よりも溶かしちゃった方が好みなのでいつもの癖でガンガン溶かしていた所はある。
しかし、せっかく生わさび初体験なのだからより純粋に香りを楽しむという意味で、ここは溶かさない方がベターだったようにも思う。
それとそもそもそういうマナーが出来た背景には「醤油に溶けたわさびは見た目がイマイチ」という結構わかりやすい根拠があったりする。
一応料理動画なのだから、多少は映えを意識するという意味でも溶かさない方が良かったかな、と反省した。*8
ゴマの香りが混ざってる上にわさび擦るのが大変でそのへん投げやりになっていたのだ。動画撮影にありがちな事故ということで。

ごめんねシャルニキ

他にも遅刻カマすわダーク♂尺余りが発生するわ、色んな意味でボロボロだ。
尺余りは「ちょっと最後に右クリックして『最後のオブジェクト位置を最終フレーム』を押すだけの事を忘れるなんてあるだろうか?」と一時期思っていたが、普通に忘れた。起こらないと思ってからが事故との本当の勝負だ。
毎回ギリギリまで迷って修正を繰り返してはエンコードを始めるので遅刻とミスを連発している。これは今でもそう。
今では経験を積んで自分の限界もある程度掴めてきたが、それでも常にその限界よりほんの少し迷って遅刻している。

尺余りはプラグインを入れて常に最後のオブジェクトの位置が最終位置となるよう自動的に修正するようになったので今後発生しない。やはり技術的解決こそベストだ。遅刻癖もなんとかできないかな。遅刻しそうになったら電撃を流してくれるプラグインが必要かもしれない。

なんやかんやスパイス祭は2022年に行われた第三回まで皆勤で参加してるが、全ての動画について「遅刻orギリギリ」「なんかデカめにミスってる」「スパイス料理の祭りにトンチで挑もうとしてる」という点で一貫している。
だいぶ酷い参加者だが、イヤがられてはいないようでよかった。賑やかしになれていたのであれば嬉しい。


第四回も同じ路線でいくか華麗なスパイス料理人に転身するかは、今ゆっくりと考えているところだ。

*1:実名だろうか? メールアドレスを直接記載するのは今の感覚だとちょっと怖いが、今でいえば動画にTwitterIDを記載したりするのと同じ感覚か。そういえば2000年頃くらいまでは同人誌の奥付にリアル住所や電話番号が普通に書いてあったという話も聞く。牧歌的だ

*2:軽く調べてみたらベルギーの会社の製品みたいに書いているサイトがあって混乱したが、アメリカの本来のメーカーがベルギーの会社に買収されて完全子会社になったという事らしい。資本主義ってスゴイ。それでも今もバドワイザーとその軽量版バドライトは北米で高いシェアを誇っているようだ

*3:当時もMAD動画等を製作してる人はいたが、PCでテレビの映像や音声を取り込むのは高価な機材やソフトが必要だった気がする。マイク挿して声真似して録音する方が手軽なのではなかろうか。いや、最先端のFLASHを製作できるような人なら機材くらい持ってるものだろうか?

*4:みたいだよね、と言われても「ひょっこりひょうたん島」はWASABIより更に30年以上前の作品だから伝わるわけないだろ。今も再放送されてたりするのだろうか?

*5:昔は「よくわからんけど英語喋ってるんだろう」と思っていたし実際英語っぽく聴こえるが正直いまだになんと言ってるかはわからない。最後らへんで"ah TRUE TRUE"と言っている事だけはわかる。元ネタのCMがそうだからだ。

*6:今でこそ「ルーを使わずスパイスだけでカレーを作るのも案外難しくないな」と思えるくらいにはなったが、当時はクローブとクミンの違いや使い所すらわからなかった

*7:もう少し詳細を言えば、新島先生の立ち絵は相当無茶な加工をされている動画がいくつもあり、しかもそれらを先生本人が好意的にマイリスしてたりTwitterで言及してたりするので、悪意さえなければ許容範囲広めの方だと感じ、甘えさせて頂いた形になる

*8:現在の私の動画もロクに映えてない事には目をつぶって欲しい