もういちど始めること

もしかして、本当に気が乗らない今このときしか無いんじゃないだろうか?

自作の動画の話:ハイ、どうぞ!

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「ハイ、どうぞ!」という名前の缶詰を使った料理の動画。
2020缶詰祭に投稿した。主催はNagiさん。

祭自体の元ネタとなっているのはNagiさんの「○○で炊き込みご飯」シリーズである。
半分以上は「缶詰で炊き込みご飯」であるため東北きりかんとも呼ばれていた(缶詰の次に多いのは瓶詰で、たまに鍋の素なんかの時もある)
ごはんのおかずにして旨い缶詰を一緒に炊き込めば当然旨い。お手軽で真似してみたくなるのも魅力だ。
Nagiさんはこの後にも「悪いことしましょう♪」といったインパクトのあるシリーズを出していたが「『(シリーズ名)の人』と呼ばれるのは嬉しいけど、でもそれを塗り替えるような別のシリーズを始めたくなる」といった事を語っておられた。私も全煮に関しては近い感情があるし、そういうものなのかもしれない。

火山杯の缶詰

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「ハイ、どうぞ!」は火山杯の缶詰である。
鹿児島県の桜島から降り注いだ灰を振るいにかけて缶に詰めた、言ってしまえばジョークグッズだ。
お土産としてこんな缶詰を貰ったらそこそこ処分に困る。「火山灰が存在するだけで結構困る」という苦悩を体験として伝えたいという事らしい。迷惑だが印象に残る面白いコンセプトだ。

改めて地図で桜島を見ると、県庁所在地である鹿児島市との異常な近さに笑ってしまう。そりゃ灰も降る。*1
これほどの活火山がそばにある大都市はイタリアのナポリぐらいだろうか? どっちもそこそこ最近噴火で死者まで出ているファンキーな都市である。やっぱ薩摩の連中ってイカれてんだな……と思いそうになったがよく考えたら肥後の連中も阿蘇山カルデラの中に牧場とか温泉とか営んでるのでこの点はどっこいかもしれない。*2

缶詰と料理の選定

「缶詰を使って料理」というお題だが、例によって私の料理スキルは低くネタを仕込もうとばかり考えていたので「缶詰自体が変」というのは方向性の1つとして必然的に浮かんだ。
しかし、変わった缶詰といっても、熊本県民が手に入れられる珍しい缶詰など通販で揃えられる程度のものしか無さそうだ。本当にニッチで珍しいものというのは基本的には東京や大阪のような大都会に集まるものだ。「ちょっと珍しい食材」程度ではインパクトにも乏しいし、そもそも珍しい食材を適切に扱えるだろうか?

悩んでいた時、缶詰祭の告知動画で「火山灰の缶詰や空気の缶詰あたりが来そう」というようなコメントを見かけた。ねとらぼでそんな記事*3を読んだ事があった気がする。
なるほどネタとしてはわかりやすいが、しかし一応キッチン動画なのだから料理という枠組みの中で真面目に作りたい気持ちもある。軸から外すユーモアというのは軸を明確に立ててこそ活きるものだし、そういう意味でも美味しいものを目指したい。

とはいえ、一応そのへんを題材にするとしたらどうなるか考えてみよう。
そういえば「缶詰を使って」という記述はあれど「缶詰の中にあるものを必ず食べなければならない」とは書いてないので、非食品の缶詰をちゃんとした調理の道具に用いる、というのは解として悪くない。何より意表を突ける……むしろ意表の突き方としてはありきたりかもしれないくらいだな。発想までは誰でも出来そうだ。

しかしそもそも、火山灰を料理に利用なんて可能なのか? 少し検索してみる。
灰ころがしや灰を含んだピザ、は、木・草など有機物を燃やして出来た灰を利用している。
火山灰は砂のようなもので無機物だから、灰という字は同じでも組成的には別物だ。有機物が酸化され尽くした灰であれば、焦げた食品とカテゴリ的には変わらない。しかし無機物は単純に吸収されないので舌でも物理的な刺激しか感じる事は出来ない。*4
性質が違いすぎるので、灰ではなくあくまで「火山灰」のレシピでなければ通用しないだろう。

……などと考えながら探してたら意外と早い段階で出てきた。鹿児島には桜島灰干しというものがあるそうだ。
なんだ、郷土料理として定着してる程度には有名な料理が存在しているのか。であれば、ここまで辿り着く人は想像よりもかなり多いかもしれない。
といっても、手順もぼんやりとしか公開されてないし実際にこれを作ってみた事がある人はそれほどいないんじゃないか。

うーん、どうだろう……

  • 非食品の缶詰を用いる→火山灰干しを選定するという発想
  • 手順の明確でない料理を作り、動画化しようという気力がある
  • 実際に火山灰の缶詰を調達出来て手間や資金面のコストを受容出来る

1つ2つはクリア出来ても、全てをクリア出来る人はいないのではないか? これなら被ったりする危険は無いのではないか? イケるんじゃないか?
「おつまみ」を作れという祭で「塩」を生成する動画を投稿した時も「発想自体はありきたりだから被るかも」と心配していたが杞憂だったではないか。*5
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ネタ被り

すると、見事にネタ被りしてしまった。
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「たかお@変なキッチン」さんである。シンガポール等のインドシナ方面? の料理動画を主に投稿されていた方だが、突然火山灰料理を投稿されていた。
ボイロ勢ではないが、はっきり言うと料理の旨そうさも映像の美しさでも明らかに私より氏の方が上である。あと投稿タイミングも先だ。
デカいサーモン、キッチンペーパーで綺麗に処理され油の輝きまで綺麗に映ってる映像、そして色調の暖かさ。*6 明らかに負けたと感じた。
投稿前に左上の緑枠書いてるあたりで存在に気付き「う、うわー、やっちまったー!」と思ったものである。

ネタは被ったけれど

「独自路線の変なネタをやって驚かせねばならない」という強迫観念に捕らわれて奇行を繰り返していた私にとって、この「ネタ被り」は非常に大きなミスだと感じ、とても憂鬱だった。しかし視聴者や周囲の投稿者の反応は違った。
少し考えればわかる事だが「火山灰の缶詰を利用して干物を作ろうとした動画が、別々の2人の投稿者からほぼ同時期に投稿された」という事実は単にそれだけで面白い。古代の2ちゃんねるならケコーンと呼ばれてネタにされるものだ。自分の事なので気づくのが少し遅れたが、被る事で発生する面白みというのも存在するし、そして何より同じ題材を扱っても、作者が違えば全然違う動画・全然違う面白さになるのだ。
灰かぶっちゃった結婚などとも言われた。誰がうまいことを事を言えといった。

安易なネタで被っても面白い、よく考えて練ったネタが何故か偶然被るのはもっと面白い。「全くの新しい発想です!」と新規性を売りにお出ししている場合を除き、どちらかというとネタはむしろ被ったほうが面白いのである。*7

私はこの経験から、ネタが被ることそれ自体をあまり気にしなくなった。被ったらそれもまとめてネタにすればよい。自分の動画が単品として面白くなるように作りこみさえすれば、あとはどうにでなる。

取り上げて頂く

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投稿から2週間後、週刊ニコニコインフォ 第17号で この動画を取り上げて頂いた。
14:30時点から取り上げてもらっていた。久々に見返したなあ。

私は「バーチャルさんはみている」という、VTuberが沢山出てくる、ドワンゴ提供でニコニコみ溢れる謎のコメディ番組を以前に視聴していたのだが、百花繚乱氏はその番組の司会でもあったのでキャラを多少理解していた。
栗田代表の事はよく知らなかったが、私の動画に乗っかって軽いジョークをかましてくれたので好感を持ったものだった。

コメントとしては軽くボケをかましつつ、缶詰祭自体の宣伝と、その後に開催された謝米祭の宣伝を行っている。
缶詰祭主催のNagiさんや謝米祭主催の天ぷら饅頭さんに「宣伝して構わないか」と許可を取りに行くのに緊張したのを覚えている。

そして、被っちゃったお相手のたかおさんも、投稿から1年半以上後という不思議なタイミングでニコニコニュースで取り上げられていた。
どうしても火山灰缶詰の炎を絶やしたくない勢力がいるようだな。
originalnews.nico

しかし、とても良い経験・思い出になった。
動画投稿を通して繋がった縁というのが面白くて、自分にとっても大切なものなのだ、という事は漠然と感じていたが、この動画を境に強く意識し始めた所はある。

余談

缶詰の調達

ちなみに、鹿児島は隣県であるが、そう気軽に行けるほど熊本から近いわけでもない。
私は原付しか持っていないので高速道路も利用出来ない。休日を丸一日潰して鹿児島に行き缶詰を買って帰るか? 仮に鹿児島に行って道の駅や土産物屋を巡ったとしても必ず手に入るとは限らない。
あと時期的にはコロナの第二波が決定的に大流行していて、ワクチンもなく、まだ先行きも見えてなかった頃である。あんまり遠出もしたくない。

と、くれば通販だが、こんなローカルなものをネットで売っている場所があるか……? と検索してみたら、なんとメルカリで出品している人がいた。
鹿児島での定価は100円のところ、送料込み777円なり。一般的な需要は無いだろうし送料込みなら値段はこんなものだろう。自分で鹿児島に行けばガソリン代にも足りないのだから手に入るだけありがたい。
これを買うためだけにメルカリに登録し、それ以降すっかり利用していない。*8Twitterアカウントから作ろうとしたりメールアドレスとも紐づけようとしたり色々な手順で認証しようとしたせいで何かアカウントの登録が妙な事になり手間取った事を覚えている。

当時メルカリに出品されていたのはほとんどSOLDで、買えたのはこの1つだけだった。
試作のため、量のために2,3個くらい確保したかったのだが……という事で、今回の火山灰干しは試作なしの一発勝負である。
一緒に作った一夜干しの方は少し試作したが、試作の時点でほぼ完璧だった。簡単な割に旨いので動画と関係なく魚を干すのはオススメである。

実際の干物の感想

動画でも触れてるが、今回できた火山灰干しは、しっとりと言えば聞こえはいいが乾燥が足りていない。味は悪くなかったが干物感は無かった。
もっとちゃんとした容器で、もっと多くの灰で、あと不織布とセロハンは片方無くしてもっと積極的に灰に湿気を吸わせるようにした方が明らかに「干し」としてのクオリティが上がったはずである。セロハンもダイソーじゃなくて食品用を用意するのだ。
今なら確実にもっと上手くやれる気がする。機会があれば再挑戦したいが、わざわざ「やるぞ」という気力が湧くほどではない。微妙な気持である。

本当の余談(チャーハン動画の構想)

缶詰祭の後に、天ぷら饅頭さん主催の「謝米祭」、つまりコメをテーマとした祭……に投稿しようと思ってチャーハンを作る動画を10本以上撮影していたのだが、全てお蔵入りになり、1本も投稿出来ていない。
私のシリーズに動画を1本も含んでいない「チャーハン」というシリーズがあるのだが、それはこの名残である。
全煮以外のうまいフォーマットを思いつけなかったのが敗因。他にもかなりお蔵入りしたシリーズはある。

この頃になると「気合の入ったものを出さないとダメだ」と完璧主義が発動し、駄作を出す勇気が出てこなくて、作っては消しのスランプに陥っていた。
勢いで出して、それから展開するほうが明らかによいと全煮で学んだはずなのだが。
また、仕事が忙しくなった事も重なり、この動画が投稿された2020/10/10から半年後の2021/5/5のN1グランプリまで、キッチン動画を投稿していない期間となったのだった。

*1:この缶詰は鹿児島市ではなく桜島を挟んでむかいにある垂水市で作られたものだが距離的には大差ない

*2:亡くなった祖父は阿蘇に暮らしていたのだが、遊びにいった時は壁に火山防災マップが貼ってあったのが印象的だった。これくらいの噴火が起こったら石はこれくらい、灰はこれくらいの地点まで飛ぶ、という地図があるのだ

*3:この日記の冒頭からリンクしているもの

*4:ミネラルって普通は砂より圧倒的に細かい粒子が食品に溶けたものを食べるものだ。伏見さんは琥珀を食べていたが、琥珀は樹液の塊なので何気に有機物枠だったりする

*5:これはネタでもなんでもなく海水を調達出来るなら実行も容易なので1人は出ると本気で思っていた

*6:この時点の私は「色調補正」という概念すら知らなかった

*7:明確に前後関係があってパロディやオマージュとしてやるという場合や、技術研究やRTAなど競争的要素が含まれている場合は、また違った文脈になる

*8:何故か? 大体のものは楽天で買っているためだ。でもまあ変なものを手に入れたくなったらまた利用する事もあるかもしれない